阿武隈川の河川敷に履き捨てられた無数の靴を、何人もの若者が上流に向かってゆっくり蹴り飛ばしながら移動している。あおいきくさんの実家を後にして、月明かりも街灯もない真暗闇の田舎道を川に向かって降りてきた僕たちは、いきなりその一群に出くわした。仲間の一人が、驚いた拍子に若者の一人を射殺してしまった。若者たちはいっせいに隠し持っていた銃を僕たちに向けるが、引き金を引かない。そのかわり、靴を上流に蹴り飛ばす人の流れの一部になれと迫る。
rhizome: 銃
木偶スナイパー
公園の木材チップから作られた表面が滑らかなA4の紙の束を注文すべきだったのに、ざら紙のA5の束二つと間違ってしまった失態を責められているのだろうか。理由がわからないまま付け狙われ、姿を変えてどこまでも追ってくる「ヤツ」から逃げている。一見、関係のないふりをしている通行人の背中から木製の銃口が出てきて、こちらを狙い撃ちする。木偶(でく)の通行人に化けた「ヤツ」に飛び掛ると、簡単に二つにへし折ることができたのだが、ただの材木の束になってしまった「ヤツ」は、今度は突然炎をあげたりして、執拗な攻撃をしかけてくる。図書館の本棚の上面に並べられた、A4やA5の用紙の束を蹴散らしながら、マブチのモーターだ、マブチのモーターさえあれば助かるのに、と思う。
殺戮小屋
薄暗い小屋の中に、仲間がいる。彼らとともに何十もの人を銃で殺し、この関門を守った記憶がある。小屋の小さい明かり取りの前に置かれた白いホーローバットに、ありとあらゆる形態のキノコが密生している。エリンギ茸のような形をしたひとつをつまむと、どんどん大きくなる。傘の縁を親指と人差し指で上手にはさむと、ついに五十センチほどにまで大きくなる。
扉の隙間から、数百メートル先にある次の小屋が見える。小屋の外に、拘束された二人の少女らしき人影が見えるが、右側の一人がかくんと力なく膝を折り、ややあって銃声が届く。
蛇は仲間だ
すっかり傷んだフローリングの床は、ところどころ体重を支えきれないほど危うくなっていて、うかつにたわんだ場所に足をかけると、すっぽり踏み抜いてしまう。床下には意外に深い空間があり、光が差し、冷ややかな空気が流れている。そこには真新しい床があるのだから、だったら一段降りて移り住んでもいいじゃないかと思う。
冷たい床下の床に、赤と白のまだらの蛇がいる。蛇を殺してはいけない。だから、ゴミ箱をそっとかぶせておくことにした。あとでゴミ箱の下に薄い板を差し入れ、そのまま板ごとずらして外に出せば、蛇に触れることなく蛇を逃がすことができる。
拳銃をもった男たちが雪崩れ込んできて、僕は拘束される。男がゴミ箱を持ち上げると、コブラのように頭をもたげた赤白の蛇が男を威嚇する。男がひるんだすきに拳銃を奪い、まんまと逃走に成功する。
蛇はやはり仲間なのだ。