rhizome: 河川敷

靴蹴り川

阿武隈川の河川敷に履き捨てられた無数の靴を、何人もの若者が上流に向かってゆっくり蹴り飛ばしながら移動している。あおいきくさんの実家を後にして、月明かりも街灯もない真暗闇の田舎道を川に向かって降りてきた僕たちは、いきなりその一群に出くわした。仲間の一人が、驚いた拍子に若者の一人を射殺してしまった。若者たちはいっせいに隠し持っていた銃を僕たちに向けるが、引き金を引かない。そのかわり、靴を上流に蹴り飛ばす人の流れの一部になれと迫る。

(2014年3月26日)

五線譜の川

河口付近の三角州地帯に住んでいると、ラッパ形の噴出機が絶えず砂を撒いているので、自分の敷地と他人の敷地の境界線はいつも砂に覆われしまう。いつのまにか部屋に紛れ込んできたルームサービスが、冷蔵庫をあけて「ビールはいかがですか」などと言うが、それは僕の私物だ。靴底でベランダの砂を払うと黄色い地面があらわになり、そこには小節の区切り線があらかじめ引かれた五線譜がある。

(2013年1月20日)

擬似記憶

河川敷に沿って建つ建物を、ひとつひとつ覗き込みながら上流に向かって歩いている。どれもみな僕の記憶からここに移築された建物なので、忘れているのに見慣れたものばかりだ。廊下に積まれた古書は自分の蔵書の記憶だが、aoikikuさんの撮った写真の記憶だったかもしれない。
ガラス越しに見えるこのフロアでは、かつて展覧会をした。空白の床と壁に展示した絵のイメージを配置するが、こう並べてもああ並べてもどちらも正しく思えるのは、これが回想のふりをしている擬似的な記憶だからだ。

(2012年11月26日)