rhizome: 泣く

火口でバレーボール

山腹の草原には、死んだ猫のまだ生暖かい血が溜まっている。そのすぐ近くで、僕は十人ほどの男女と円陣を組んでバレーボールをしている。和気あいあいと見えるのは表面上のことで、彼らは僕を拘束に来た連中だということを、僕はとっくに知っている。ふと眼下を見下ろすと、ここは巨大な死火山の山頂で、遠くカルデラ式の火口内面が緑色に霞んで見える。この状況にふさわしいBGMが流れてきて、こみ上げてくる号泣を喉元で砕きながら、こういう感傷的な音楽は好みではないし、そもそもこの配役は自分に似合わないと思う。

(2000年10月6日)

高所のいさかい

自転車で地下から地上へ、さらに坂を登りどんどん高度を稼いで川を一望する長い橋の、さらに吊り橋を吊る柱の頂上まで来てしまった。一気に登ったものの、さてどうやってここから降りるのか、降りる怖さを知らないで登ってしまう山の初心者のように足をすくませながら考えあぐねていると、未成年の男女が高所で言い合いをしている。こんなくだらない話題でよくもそんなに真剣になれるものだ、と嘲笑しているつもりたっだが、うかつにも女の語調に巻き込まれ号泣している自分が照れくさい。

(2000年9月26日その2)

口から蘇生

死んだばかりの僕の父が、僕の息子の口から蘇生するかもしれない。息子と秋葉原に行き、ジャンクのプリント基板と電流計を手に入れ、帰宅する。すると彼は突然、口から何かを吐き出す。その嘔吐のようなものを母といっしょに指で選り分けてみるが、そこに父は見当たらない。親戚のMが、蓑をまとって雨の中を走る男の話をしている。それが誰のことだかわからない。僕も母も、その話を上の空で聞きながら、もう父とは会えないのだという実感が込み上げてきて泣いた。

(1996年8月13日)