rhizome: 杉山康彦

播種装置

いつもきみたちのところで飲んでいるのは申し訳ないからと、杉山先生が鶴川にある自分のマンションに招待してくれると言う。僕はそれを、相模なんとかという駅で聞き、さてどうしようか迷っていると、着替えなどは以前ロッカーに置いたままだから、とRがキオスクの従業員用の扉を開ける。そこには見覚えのある靴やシャツやバッグがかかっている。そういえばここ何年か見なかったのは、ここに置いてあったからか。
相模なんとかという駅は終着駅で、やけに巨大な先頭車両が、線路終端のコの字ホームに入り込んできたところだ。黒人の運転手が声をかけてきて、この機械のわかりやすさを実証するために、いくつかインタビューしたいと申し出る。僕は彼の説明を聞きながら実際に鉄の塊を操作してみるが、回転数の設定はレコードプレーヤーとほぼ同じ目盛に、特殊な速度を上書きしただけなのがバレバレだ。この鉄の塊は、実は種まき装置なのだ、と黒人がこっそり告白する。

(2007年7月2日)

退化する猿

突然、彼女は着替えをはじめた。こんなチャンスはめったにないのに、僕はこの部屋に居続けるわけにはいかないのだ。すぐにでも猿のところに帰って餌をやらないと、猿が飢え死にしてしまうからだ。後ろ髪を引かれる思いで、僕は部屋を後にする。
道々すれ違った杉山教授が、片手に鮭の入った握り飯をいくつか持っている。僕がせがむと、杉山教授はしぶしぶひとつ分けてくれた。
猿に鮭の握り飯を与えると、彼はまたたくまに平らげた。そして、その瞬間から彼の退行がはじまり、順次下等な生物に変身しはじめ、ついには数ミリの二体のホタルイカになってしまった。王冠状の足が互いにかみ合いながら美しい光を放っているのを、僕は悲しいような嬉しいような気持で眺めていた。

(1997年6月2日)