旅先の富山で、流れる雲の隙間から陽がこぼれる奇跡的な気象条件に誘われ、バスの仲間から離れて町をさまようと、剥げてめくれた塗装が躍る質屋や、バレーコートにだけ陽のあたる校庭の人影など、数えきれないほど不思議な写真を撮る夢を見ている。
rhizome: 夢
宿泊体育館
山田興生さんが吉祥寺にある廃れた体育館を改装して、宿泊施設を作った。五十センチほどの正方形の出入口がひとつあいているだけで、中はなにもない。中に入った人は無意識を共有し、みなが見ている夢の一部を自分も見るので、とくに何も用意しなくても大抵のことはなんとかなる。いいアイデアでしょう、と山田さんが言う。山田あっこさんが、体育館の裏手で粘土の餃子を作っている。入口の大きな靴ぬぎ石にサンダルを脱ぎ、これで三度目になるなと思いながら穴に入ろうとするが、奥行きは今までより長く感じられ、なかなか室内に抜け出せない。
バナナシュビドゥバ
十ある課題をクリアすれば、この巨大な建物群から抜け出せることはわかっている。八つ目までは(それがなんだったか思い出せないが)なんとか切り抜け、九つ目がいままさに解かれようとしている。それは、短い黒髪の女性を発見して救い出すという課題。肩に小さい刺青のある女性は、宗教上の理由からそれを外套で隠さないと絶対に動けないと主張する。やむなく僕は天井から縄で女性を吊り上げ、ドラム缶へ格納することに成功した。すると彼女は、次の課題の答えをまんまと教えてくれたのだった。建物の屋上伝いに、彼女の教えてくれた店にたどり着くと、暗い極彩色のペンキでぬり分けられた店内にウサギのウエイターが迎え入れてくれる。「バナナシュビドゥバ」という短調のテーマ曲が執拗に繰り返されている。この夢といっしょにこの歌を採譜せねばと、何度も頭の中で音符を書いたが、すぐに記憶が消えてしまう。
止まらない小便
中央線沿線のどこかの駅から、僕ら数名の仲間は、見知らぬ女のワゴンに乗って都心に戻ろうとしている。出発する前におしっこをしてくる、とナオコが席をたつ。まったくこんな時に、と、僕はいわれもなく腹を立てている。
戻ってきたナオコが、あなたも行っておいたほうがいい、絶対にそのほうがいい、としつこく言うので、僕はしぶしぶトイレに向かう。そこは、かつて病院か学校であったであろう廃屋で、不気味ながらなつかしい光線が差し込んでいる。奇妙な形の便器に向かって小便をはじめると、なかなか終わらない。遠くから「ほうら、あんなに溜まっていたのに」と、ナオコの非難がましい声がする。しかし、小便はなかなか止まらない。
いつのまにか背後に、車の女がぴったりと寄り添っていて「変なことをしたいわけじゃない」と言い訳しながら、僕の下腹を押しはじめる。「こうすると、おしっこが早く終わるから」
しかし、いっこうに小便は終わらない。女が「これは夢だから、本当はおしっこがしたいだけで、まだ本当には出ていないのよ。だからなかなか終わらないの」と説明してくれる。なるほどそういうことなら、早く目覚めてトイレに行かなくては、と思う。