rhizome: 友達の父親の工場

ガラスの単発機

神長君のお父さんがイヤホンなどを作っている工場で、ガラスでできた単発の飛行機を修理している。正面中央にあいた穴をずらさないとエンジンが入らない。測ったり線を引いたりする時間がないので、ドリルを使って目分量で穴を開けるしかない。脅しているわけでも意地悪しているわけでもなく、本当にこれしか方法がなく、これでダメなら飛ぶのを諦めるしかないんだ、と鳥のように怯える飛行機に言い聞かせている。

(2018年2月20日)

色鉛筆の通路

駅前広場を出て道を左に折れると、機械油を吸い込んだ灰色の壁が延々と隣駅まで連なっている。この道は現在もあるが、こんな無彩色ではない。景色が単純で灰色なのは、今歩いている道が子供のころの道だからだ。
子供のころの道を歩きながら、ふと思い出した抜け道に分け入ると、そこは土砂や建築資材をうずたかく積み上げた場所で、登っていくと友達の父親が経営している工場の門があらわれる。
友達がくれた工場の見取り図には、坂の下までいっきに降りる土管が書かれている。子供のころは通り抜けるのがなんでもなかったその図面上の土管を、僕は白い色鉛筆を使って何度もなぞっている。こうしておけば、色鉛筆が蝋のように滑って体がつかえてしまうこともない。

(1999年1月15日)