rhizome: 大きな鳥

ハブ鳴き

中2階のフロアいっぱいに、透明アクリルパイプで構成された広大な回路がある。どこかから母の声がするので探し当てると、パイプの中で止まっているただのローラースケート靴だ。いまイオンで買い物をしている、携帯電話をかけているわけじゃない、など靴と会話できる。技術者の浦野くんが、遠い声が共振してしまう「ハブ鳴き」現象だという。
エレベーターのボタンをタイミングを合わせてうまく押すと、地下中2階に止まることができる。ドアの向こうに海岸が広がっている。砂浜に斜めに立つ柱は、円錐状に広がる何本もの紐で支えられている。やわらかいほろほろ鳥が、先端に突進しては紐の間を無理やりすり抜ける遊びに興じている。

(2018年7月13日)

ガラスの単発機

神長君のお父さんがイヤホンなどを作っている工場で、ガラスでできた単発の飛行機を修理している。正面中央にあいた穴をずらさないとエンジンが入らない。測ったり線を引いたりする時間がないので、ドリルを使って目分量で穴を開けるしかない。脅しているわけでも意地悪しているわけでもなく、本当にこれしか方法がなく、これでダメなら飛ぶのを諦めるしかないんだ、と鳥のように怯える飛行機に言い聞かせている。

(2018年2月20日)

性転換ウォッチ

キムさんが腕時計を巨鳥の腹にあてると、そのたびに鳥の性別が雄になったり雌になったりするので、キムさんが鳥の足につかまって飛び立つ瞬間、鳥が雌だったか雄だったかわからない。たまたま意地の悪い雌だったらどうしようと言うと、キムさんは鳥の仕事をしたことがあるので鳥の弱みを知っているから大丈夫ですよ、と、みづ樹さんは楽観している。

(2018年2月10日)

ダチョウパイロット

広いグラウンドのフェンスの縁に体を押し付けて寝ている。突如、巨大な鳥の形をした飛行機の長い首が空に現れ、ゆっくりと倒れかかってくる。これは訓練かなにか通常のことなのだとわかっているのだが、逃げようかどうか体が迷っているうちに、その乗り物は思いきり頭を地面に叩きつけた。人は乗っているのか、これが訓練なら命がけだ。ダチョウの頭にある操縦席を見やると、ヘルメットをつけた二人のパイロットの片方が、一瞬こちらを見て合図を送ってきたような気がする。

(2011年1月24日)