rhizome: ピアノ線

多関節蛇列車

巨大な多関節蛇型列車が、竜のように形を変えながら高島平の発着場に降りてくるのを待ち受けようと気が急いている。北端の崖を走り降り、自転車を乗り捨て、線路脇に張られたピアノ線の縄梯子を注意深く踏み外さないように登りはじめる。

(2011年7月19日)

缶の高下駄

一足先に坂をのぼり佐々木の部屋に到着した僕は、Samがまだ来ないがどうしたんだろうかと佐々木の母親に尋ねる。すると安斎さんいますか?と言う声とともに突然窓の外にSamの顔が現れ、僕はひとまず安心するのだが、しかしここは二階なのにどうして窓から見える顔が水平方向なのだろうと、乗り出して見るとSamの両方の足もとは黒い空缶の上にある。その空缶も空缶の上にあり、視線を地面まで傾けると二本の長い直列空缶の上にSamが乗っている。紐つきの空缶を両足に履く竹馬遊びなら知っているが、こんな高下駄は見たことがない。どこでそんな芸を身につけたのかと尋ねるやいなやSamの背中から空に伸びたピアノ線は高いクレーンについた滑車に引き込まれ、Samも空缶もろともすすすーっと天空に舞い上がっていったのだった。

(1999年6月30日)