工具箱の中には、専門外の人間には用途の見当もつかない奇妙な器具がいくつも無造作に投げ込まれていて、人類のすべての道具をアーカイヴしているわれわれにとってこのうえなく貴重な宝箱なのだが、工具箱の持ち主である彼らはあっさりと箱ごとそれを貸してくれた。助手は土手の上の明るいところまで道具箱を運び上げ、棚田のように飛び出す蓋を左右に開き撮影を始めた。助手は個々の道具をレイアウトしなおしながら、ふと思い出したように僕の黒いノートが山頂のあたりに落ちていたのを見たと言う。なぜ拾ってこないんだよ、拾うだろうふつう、と彼を責め立てながら、「れめめwiki」の新しい項目としてノートに書かれていた「アッケポロウ」という顔料の精製方法を思い出してみるが、記憶が細部までつながらない。工具箱の持ち主たちは、その顔料をマッシュルームの入った塩ケーキを作るやり方で作り始めている。彼らは可能世界の職人なので、道具箱がなくても比喩的な方法でなにごともこなすことができる。
平行世界の職人たち
(2013年7月27日)