rhizome: 放送

中洲宴会

自宅裏手の深く切り込んだ崖に、珪藻土の小片を落としてしまう。強力なライトで崖底を照らすと、老婆がまぶしそうに見上げながら珪藻土をこちらに差しだしてくれる。老婆からはライトを持っている人間は眩しくて見えない。駅前の人の流れを分ける小高い中洲で、飯田くんと水越さんが宴をひろげている。歩道橋に陣取った放送ブースの男が、中洲呑みはメディアか、などとめんどくさいことを聞いてくるのでシカトする。遠方に見える自宅の照明が灯台のビームを出しているのを見て、照明は照らされる側にとって暴力だと飯田君がいう。操車場の貨物列車に乗った数百体の彫刻が、シルエットの行列をなしていま動き出したところ。

(2017年12月31日)

魂を返す

全面ガラス張りの部屋で情事をはじめようとカーテンで窓を塞いでいくが、塞ぐそばからあちこち綻びる。左右のことは気にしていたけれど南北まではねえ、と網戸の外で伊藤くんのお母さんが言う。まったくですね、という声がスイッチの入ったワイアレスマイクから校庭に流れ出している。さっきまでここにいた彼女の孫、つまり伊藤くんの子は、家に帰っていったのに魂だけ残したままだ。魂がなければ彼も困るはずだからと、彼女は手の先から力を出し、魂を灰色の巨大キノコに実体化し、孫の家の方角に投げ戻した。長い廊下から部屋に戻るとインド人が商売をしている。部屋を間違えたかと外に出るが、やはりここは自分の部屋だ。この事態を見ている男が、偶然失敗することはあるが偶然成功することはない、と格言めいたことを言う。なんの含みなのかよくわからない。

(2017年4月20日)

五叉路

旅の帰路、集団からはぐれてしまい、幾本も放射する道の中心に立っている。ひとつの道には緑生す谷がある。ひとつの道は深い堀に沿って階段で降り階段で上がるが、どちらの階段も踏み込んだとたん段が動き始める。ひとつの道は白い綿のクッションを積み上げた山で、頂上を踏むと山が崩れ、バザーに出す女ものの下着が山裾に散乱する。ひとつの道にはNHKの7時のラジオニューススタジオがあり、アナウンサーのまわりを怒号が飛び交っているが、怒号だけマイクが拾わない回路が働いている。

(2016年8月3日)