1996/10/24  能登 回転する家



 車道から外れて狭まった工事中の柵を抜けると、そこが我が家の新築予定 地だ。山の傾斜がそこで終り丁度谷の様になっている。なだらかな傾斜だ が雨などで流されたのだろうか、その上を土砂が埋めている。土砂で家が 押し潰されるという事はないだろうか?気になり見上げると、斜面に一人 の男性が居る。誰も居ないと思っていたので少し驚く。
我が家の設計プランナーが家に居て彼らの斬新なアイデアを説明してい る。保険の営業マンみたいな男だ。彼らの斬新なアイデアは、世界初の 360度自由に回転する家で、そうすれば 日当たりも満遍なく、窓外の風景 にも厭きる事がなく、何よりも方位の呪縛から逃れ得るのだ。僕達は一も 二もなく賛成だ。そのアイデアは彼らのブレーンの一人である漫画家が出 したものだという。漫画家なら多少は知っている。どういう漫画を描くの か聞くと、「ゆきよし君」が知られていると、あぁそれなら僕は読んでな いが母が好きで、シリーズもののそれが5〜6冊本棚にある筈だ。しかし 一人だけ頑なにプランに反対しているのが、その母だ。プランナーも説得 に苦慮している。母の居る薄暗い居間に入る、僕達4〜5人の家族。その 居間の窓の風景が回転してがらりと変わるのを想像してみる。実感するの は難しいが、悪くないものだという予感はある。母は理由も言わないで、 兎に角反対の一点張り。そんな母に業を煮やし皆出て行く。最後に僕も出 て行こうとしたら、岩のように頑なになっていた母が、 突然泣きじゃくり ながら僕に抱きついてくる。「行っちゃあ駄目!本当に終わりになってし まうから、行っちゃあ駄目!」。その通りだ。出て行くとそれで家族関係 は終りだ。僕は出て行かないよ。でも僕は一体どうすれば良いんだろう。

(〜夢)回転式の家、あれば本当に良いと思います。



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