1996/8/13 安斎利洋 口から蘇生
死んだばかりの僕の父が、僕の息子の口から蘇生するかもしれない。息子と秋葉原に行き、ジャンクのプリント基板と電流計を手に入れ、帰宅する。すると彼は突然、口から何かを吐き出す。その嘔吐のようなものを、母といっしょに指で選り分けてみるが、そこには父は見当たらない。親戚のMが、蓑をまとって、雨の中を走る男の話をしている。それが誰のことだかわからない。ぼくも母も、その話をうわのそらで聞きながら、もう父とは会えないのだという実感が込み上げてきて、泣いた。
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