旅の帰路、集団からはぐれてしまい、幾本も放射する道の中心に立っている。ひとつの道には緑生す谷がある。ひとつの道は深い堀に沿って階段で降り階段で上がるが、どちらの階段も踏み込んだとたん段が動き始める。ひとつの道は白い綿のクッションを積み上げた山で、頂上を踏むと山が崩れ、バザーに出す女ものの下着が山裾に散乱する。ひとつの道にはNHKの7時のラジオニューススタジオがあり、アナウンサーのまわりを怒号が飛び交っているが、怒号だけマイクが拾わない回路が働いている。
rhizome: NHK
打楽器の撥
校庭のトラックをぼんやり白線沿いに歩いているうちに、頭に綿毛のついた打楽器のバチを拾った。いつのまにか校庭でやられていた大会は終わり、撤収が始まっている。どこかにマリンバやティンパニのある部屋があった。そこにバチを返さなくては。しかし軒を並べた部屋はどこも体育会系で、音楽部が見当たらない。NHKの取材班が、大会の時間を午後と勘違いして今頃やって来る。大会はとっくに終わったと告げると、内輪もめが始まる。
クマカップル
幾重にもニスで塗り固められた古い校舎に、NHKの仕事で来ている。同じ仕事をしている和登さんとともに、クマの着ぐるみを纏って廊下を歩く。女グマの和登さんは、廊下の波型の壁にかたかたと爪を立てて機嫌が良い。「汗をかくのでお風呂に入りたいね」と女グマが言うので、「クマ同士二匹で入ろう」と誘いかける。ヒトとして誘ったつもりなのだが、クマとして着ぐるみのまま風呂に入ることになる。
透明なビニール風船でできた仮設ハウスの中で、子供たちは女グマともつれるように遊んでいる。空気穴からビニールの中に入ってみると、外見は同じクマなのに子供が寄ってこない。女グマはなぜかおねえさんと呼ばれ人気がある。首の継ぎ目や袖口など、着ぐるみのどこから内部情報が洩れるのかチェックするが、理由がわからない。
木造合宿
高層の日本家屋は、築何十年になるのか誰も覚えていないほど年季が入っていて、あちこちの軋みが繰り上がって最上階に集まってくる。窓を開けると、はるか地上の広場に駐車してあるはずの車が、目の高さの蜃気楼として見え、薄もやに僕自身のブロッケン現象が影と虹を落としている。
夜の宴会で、ひとりだけ浴衣に着替えた茂木健一郎となにやら話をする。彼は、窓を十センチくらい開けて小便をしている。寝床に帰ろうと最上階の部屋へ行くと、部屋割りとは関係なく布団が敷いてあり、僕の部屋には大人用と子供用の布団が一枚ずつ。これは、どこかの家族に割り当てられたに違いない、と確信するが、子供用の布団にはすでにNHKの背の小さい人が潜り込んでいる。いくら小さくてもそこに寝てしまっては困る家族がいるのではないか。