駅前に廃棄されていたといって3本の黒い柱を勇樹がもってきたので、柱の中に顔をつっこんでみると、いろいろ配線が外れているものの、赤いボタンを押すとプリンタが動き始めたり、弛緩していた織機が糸を張ったりするが、何ができて何をしようとしているのかわからない。
勇樹は、ブロアで舞い上げた彼の息子の衣服をコンクリートの壁面に投影している。赤ん坊が宙で遊んでいるように見える。
駅前に廃棄されていたといって3本の黒い柱を勇樹がもってきたので、柱の中に顔をつっこんでみると、いろいろ配線が外れているものの、赤いボタンを押すとプリンタが動き始めたり、弛緩していた織機が糸を張ったりするが、何ができて何をしようとしているのかわからない。
勇樹は、ブロアで舞い上げた彼の息子の衣服をコンクリートの壁面に投影している。赤ん坊が宙で遊んでいるように見える。
大人たちが帰ってきたので、あわてて裸の下半身を炬燵の中に隠した。少女の柔らかい感触が足にからみつきながら炬燵の中でなんとかタイツを履くことができた。帰ろうとする少女を大人たちが引きとめている。こうやって長い時間置いておけば、動物とおなじで番(つがい)になるから、と大人たちが影でささやいているのが聞こえる。
階段を上って二階の自分の部屋へ上がると、初めてみる3階への階段がある。登ってみると薄い板がきしむ。安い木を使うとこういうことになる。カウンター席も同じ素材でニス仕上げも安っぽい。なんで大人は一割の差をケチるのか。
3階の奥から階段を降りると、ジョージ・クルーニーが製図器具を売っている。烏口のコンパスは3万円のところ千円に割引くという。仕上げの美しさに心が動くが、この先これに墨を入れて使うことはまずない。別の棚にある十字の溝を彫ったドライバーを見ていると、その間にジョージは製図器具一式を包んで合計7万円の請求書を書いている。冗談じゃないどいつもこいつもずるすぎると言ってその場を去る。
地下のスタジオは天井が背丈ほどしかない。地下を伝って別の建物に抜けることができるのを知っているので、警備員に不審がられないように平静を装い、つきあたりまでくると、たくさん子供たちが群らがり、ひとりの赤ん坊に卵ごはんを食べさせている。箸の先端は危ないので、反対側を使い上手に口に入れると、赤子はミンチマシンの入口のように滑らかに吸い込んでいく。
アリ塚のような団地は、外は晴れていても中は雨が降り続いている。無計画に増築してしまったので、塞ぎようのない亀裂から入りこんだ水が建物のあちこちに溜まっている。液状化した泥のベッドに浸かっている女が、こうしていると自然分娩できると言って、泥水の中でスカートのようにひらいた膣を水母のようにふわふわさせると、ふわふわごとに赤ん坊の卵が下におりてくる。