rhizome: 茶葉

数珠手紙

彼女は朝方ばたばたと不意に帰ってきて、旅先で書いた手紙を差し出した。それは重くて大きな枠に嵌った手紙で、横に渡された何本もの凧糸に、さまざまなものが単語として数珠つなぎに層をなしている。手鞠状の茶葉、乾燥したキノコ、図書館のICカード、ニスで固められたゲーテの引用などなど。マツコデラックスの引用部分は、大きい松茸のカサが前後の行に被っていて、前後それぞれの行でも意味をなしている。これはすばらしい文学的技巧だ。しかしレトリックのすばらしさは理解できるのに、これが決別の手紙なのか仲直りの手紙なのか、それさえ読み取ることができない。まずはどこかにこれを保管して、時間が解読してくれるのを待つことにしよう。

(2013年3月15日)

反転ポット

髪の短いその女が誰だかわからないまま、Fといっしょにやってきたのだからきっと古いつきあいなのだろうと思い、親しげに話している。
「髪切ったんだね」「あ、一年前よ」……やはり思い出せない。彼女は、ここらへんに小田原城跡のような店がないか、携帯電話のケースを買うのだ、と言う。

彼女たちに紅茶を入れようと、ガラスのティーポットに紅茶葉を入れ、お湯をそそぐ。少しお湯が足りなかったので、急いで少量の水を湧かし、そして卓上にあるティーポットを見ると、なんと口が下を向いて紅茶も葉も外にこぼれ出ている。透明だからこういう間違いをするのだろうか、と思いながら、上下をひっくりかえして葉を入れ直す。コンロのお湯に目をやり、ふたたびポットを見ると、またひっくりかえっている。Fがその一部始終を見ている。もしやと思い、逆立ちしたポットの底を押してみると、それはまるで飴のようにゆっくり変形し、テーブルにめり込みながら平らなガラスの円盤になり、そして完全に裏返ってしまった。Fはなぜか動揺せずにそれを見ている。僕は度肝をぬかれながら、不思議に気持ちよいポットの弾性を何度も手で確かめている。

(1998年1月17日)