rhizome: 老人

棚田温泉

一人用の風呂桶が棚田のように配置された温泉で、どれに入ろうか迷っている。高い浴槽からあふれた湯が次の浴槽に流れ込むので、無造作に並んだ湯船の連鎖反応を読まないと他人の迷惑になるからだ。段々の谷間でひっそりと湯に浸かっている老人が、実は名手であることを脱衣場の噂話で知った。なんの名手だったかは、衣服を脱いだ今となってはわからない。対岸の棚田で、体毛を剃りながらふと目の合ったまりこさんが、にこやかに手を振っている。

(2013年9月2日)

アナログカメラ同好会

ビルの一フロアに匹敵するほど広いエレベーターがたどりついた階は、ゴザを敷いて陣取りをした花見客や家族連れが寿司詰めになっている催事場で、子供たちは福袋の棚に神経を集中させ、大人たちは軽快な音のする機械式シャッターを空押しして、旧式のアナログカメラを自慢し合っている。場違いであることはすぐに了解した。僕の胸に下がっているのはニコンの最新のデジタルカメラで、ここは古いアサヒペンタックスの同好会なのだから。いまさらなんでこんなレトロなカメラなのかと、ややあきれた気持をいだきながら、デジカメを悟られまいと隠しつつ前を見ると、会長と思しき老人がしゃべりながらうずくまって眠ってしまう。聞いている人々も大半は眠っていて、会長の突然の睡眠を奇異に思う人はいないようだ。レトロな同好会なのだから、これも仕方ない風景だ。

(2002年2月10日)