棚田温泉

一人用の風呂桶が棚田のように配置された温泉で、どれに入ろうか迷っている。高い浴槽からあふれた湯が次の浴槽に流れ込むので、無造作に並んだ湯船の連鎖反応を読まないと他人の迷惑になるからだ。段々の谷間でひっそりと湯に浸かっている老人が、実は名手であることを脱衣場の噂話で知った。なんの名手だったかは、衣服を脱いだ今となってはわからない。対岸の棚田で、体毛を剃りながらふと目の合ったまりこさんが、にこやかに手を振っている。

(2013年9月2日)