rhizome: 旋盤

断捨離工房

鉄板を貼った作業台、木工旋盤で削りだされる丸柱、壁にかかった鉄製の道具、漆塗りのための刷毛など、階下にある木工作業場の夥しい物に圧倒される。Rはもう工房の職人たちと仲良くなって、木の杖に穴をあける相談をはじめている。
引っ越しを前にしてほとんど物がなくなった二階に来ると、最近塗られた分厚い塗装のせいでロッカーの扉が開かない。このまま開かなくても別段困ることもないな、と思う。

(2012年10月14日)

死と学習

数ヶ月後の死を宣告され、川の上流のとある自転車修理工場で働いている。どうしてそんな暢気でいられるの、と工場の女に声をかけられる。平静は装っているだけで、今になって思えばあんなにビールをがぶ飲みするんじゃなかったと後悔もするさ。
旋盤のチャックの形をしたディスクブレーキの新技術に対応するための講習会があると言うので、出かけることにする。それを習いはじめても、数ヶ月で習得できなければ無駄になる。死を宣告されながら無駄を承知で新しいことをするのは、いずれ死ぬのに生きているすべて人々と同じことだ。そういう金言がどこかにあったか、あるいは今思いついたのか、どっちにしてもその通りだと思いながら、下流の講習会場へと自転車を走らせるのだった。

(2001年10月13日)