東京の環状電車外回り線は、都心から葛飾区へ至る区間に十数本の東京タワーをくぐり抜ける。塗装のない剥き出しの鉄骨は暗闇のように深く錆びつき、乗客は車窓から手を伸ばして鉄錆を擦り取ろうとするので、タワーが近づくたびに無数の指の骨がかたかたと音をたてて鉄骨に当たる。
勇気を試そうというのか、ご利益があるのか、どうしてこんなに危険な習慣が根付いたのか由来がわからないまま、次のタワーが近づいてくると、自分の掌も自ずと錆を欲して奮い立っている。
(2012年11月7日)
東京の環状電車外回り線は、都心から葛飾区へ至る区間に十数本の東京タワーをくぐり抜ける。塗装のない剥き出しの鉄骨は暗闇のように深く錆びつき、乗客は車窓から手を伸ばして鉄錆を擦り取ろうとするので、タワーが近づくたびに無数の指の骨がかたかたと音をたてて鉄骨に当たる。
勇気を試そうというのか、ご利益があるのか、どうしてこんなに危険な習慣が根付いたのか由来がわからないまま、次のタワーが近づいてくると、自分の掌も自ずと錆を欲して奮い立っている。
温泉まで歩く行列について行くことになった。道端に列をなして並んだ椅子に、老いた湯治客が、おそらく背もたれのあたりから沸き出るスチームを浴びるため、肩をほぐす独特のしぐさをしながら座っている。そのしぐさを挨拶と間違えたのだろう、われわれの行列はいつのまにか道端の湯治客に、いちいち会釈しながら歩いている。よせばいいのに、と思いながら、なぜか自分もその人たちに軽く会釈している。