rhizome: 骨

鉄錆タワー

東京の環状電車外回り線は、都心から葛飾区へ至る区間に十数本の東京タワーをくぐり抜ける。塗装のない剥き出しの鉄骨は暗闇のように深く錆びつき、乗客は車窓から手を伸ばして鉄錆を擦り取ろうとするので、タワーが近づくたびに無数の指の骨がかたかたと音をたてて鉄骨に当たる。
勇気を試そうというのか、ご利益があるのか、どうしてこんなに危険な習慣が根付いたのか由来がわからないまま、次のタワーが近づいてくると、自分の掌も自ずと錆を欲して奮い立っている。

(2012年11月7日)

肘の肉片

肘の手術を受けるため、ベッドに横たわっている。数人の看護婦が、窓際でTシャツを交換しあったり、互いに手の角度を千手観音のようにずらしたりして騒いでいる。この病院は賑やかでいいですね、と医師に話しかけるが、ラッパ形のステンレスから噴出する蒸気をたっぷり吸ってしまった僕の言葉は言葉になっていないようで、彼は理解できないそぶりをする。肘から切除された軟骨は、ベッド大のステンレスバットに投げ込まれる。食品売り場の牛モツのようにうずたかく盛られた肉の断片を、へらでぺたぺた塗り固めている白衣の男がいる。

(2008年3月2日)

輪読会の犬

土の露出したグラウンドで、マグカップに書かれた文庫本を輪読するゼミに出席している。青土社から出ているこの陶製の本は、注釈の小さい文字が円筒の表面にびっちり書かれている。輪読に参加している華奢な体の女が、小型犬に頭から飲まれてしまう。胸まで引き込まれた身体をやっとのことで引きずり出すと、苦しそうな女は透明な粘液にくるまれていて、このままでは窒息してしまうだろう。服をはだけた女の胸は子供のようで、やや膨らんだ乳首をぬぐうと、掌にあばら骨を感じる。

(2006年2月23日)

皮剥ぎ恐竜

踏切近くの操車場に、骨付き鶏もも肉を巨大化した塊がふたつ、スーパーのパックから落ちこぼれて放置されている。近づいて見るまで、それが皮を剥れた恐竜であることに気づかなかった。ふと片方の肉塊が長い首をもたげ、落ちているもう片方の肉塊の頭部を咥え上げると、草食の首長竜を胴体とし、肉食恐竜の大きな頭が乗ったキメラが立ちはだかり、虚ろな目が僕を見ている。

(2001年10月28日)