rhizome: 霞

ドキュメントスキャナの舟

ドキュメントスキャナの4階の客室にいる。底面は快調に滑りながら地面を読んでいるが、90分授業のはじめに最重要部分を過ぎてしまったので、後半をどうするか考えていない。高校の仲間たちと高速船で帰る。4階の高い視点から眺めると、沈殿した靄から高層の菌類が突き出して、見慣れた東京も別世界のようだ。今日見たいちばん幽玄な景色はここだな、と言いながら川俣たちと山水画の北区を過ぎる。4階から白いボストンバッグを引きずり下ろし、部屋にあった白いバスローブを着たままだったので、甲板のキャビンアテンダントに返す。

(2017年5月10日)

瓦落多の馬場

自動改札を詰まらせてしまった子連れの女の傍らに、改札装置の内部に詰まった瓦落多を駅員が次々と取り出しては積んでいくので、見る見るうちに背丈より高い山になってしまう。申し訳なさげなその女と、僕は目を合わせないように隣の改札を通過し、エスカレーターで高架のホームへ向かった。しかしあの百円玉や針金細工や半濁音や冠詞の混じった瓦落多は、写真に撮っておくべきだった。
高田馬場のホームはミルク色に沈殿した霞に浮いていて、毎日の利用者でありながら異様な標高に足がすくむ。ミルク色に沈殿した雲海から突き出す建物の影はそれぞれでたらめに傾斜しているので、垂直に立っていることができない。タイル貼りのベンチの背に手をついて恐る恐る移動していると、改札の女が軽やかに行く手をよぎり、彼女のふくらはぎに躓いてしまう。

(2012年9月23日)