rhizome: 話す動物

小鳥と暮らす

小鳥と話ができるようになった。鳥の記憶モデルを知ったためだ。小鳥は、冷たいくちばしを僕の下唇に押し付けながら、興味深げに顔を傾げ、歯が段々になっていると言う。きみもいつかこういう歯が生える、と小鳥に言うと、それは気休めだと言う。家に帰ると、鳥は一目散に水槽へ向かい水浴びをするが、勢い余って水槽の外にはみ出してしまう仕草が愛おしい。その光景を見ている家族が、お前は鳥と仲良くしているときは気づかないだろうが、人と話をするときは顔についた白い軟膏のようなものを洗いなさい、と言う。近所の葬式に行くため礼服に着替えていると、どんなに立派なことを言っても、立派な喪章をつけていかないと意味がない、と言われる。

(2013年11月12日)

猿おやじ

赤い手染めのシャツを格安で売るという怪しい男がいる。シャツは染めたばかりで、まだ水を含んでいる。僕は現金を持っていない。バッグから探し出した小切手を見せると、これは換金できないから判子もよこせと言う。バッグから特大の印鑑を探し出し、印の面に貼った和紙をはがすと自分の苗字ではない。そんな押し問答を暗い路地でやっていると、ここでそんなことをされちゃ商売にならねぇ、と神棚に乗った小型の猿のようなおやじにどやされる。しかしおっさん、なにも売ってないじゃないか。そんなことはねぇ、といきなり機械の軋むような声で唸り始め、猿おやじが浪曲師だったことがわかる。

(2010年9月26日その2)

犬の兄貴たち

藤枝守さんと野菜を育てる話をしていると、階下にジャニーズ系グループの少年たちが集まっている。近くでキャンプをしていたらキャベツがないことに気づいたので、借りにきたのだと言う。キャベツを借りにくるという奇妙な行動には感心するが、しかし借りるなら返してほしい、と言う。
小さい愛犬とともに、少年らを送りに出る。途中で愛犬の鼻先に手を置くと犬は眠ってしまう。いっしょに路上に寝ころんで、すっかり犬が寝付いてしまうのを見届けてから彼らは帰っていった。目覚めた犬と手をつないで帰る道すがら、男の子たちが帰ってしまったことに落胆する犬の話を聞いてやった。彼は、ああいうとびきり悪い兄貴がほしかったのだと言う。

(2000年10月1日)

短命のカエル

その蛙は子供で、言葉を話すことができる。彼は僕の膝の上にのって、いろいろな話をした。彼といるのが楽しかった。彼は言葉を話せるのに、蛙だから寿命が短い。彼はもうしばらくすると死ぬはずだ。だから、僕は彼となるべくたくさん遊ぼうと思っている。

(1996年3月30日)