石造りの校舎の広い階段を白衣の男と降りている。男は自分の身長ほどもある乾燥ミジンコに糸を張った凧を抱え持っている。凧の帆にどんな生物種を使うかによって、予防できる感染症の種類が異なる、と白衣の男は力説するが、オカルトのようで僕は信じていない。彼はまた「NTTの番号案内には生前の番号を案内する別の入り口がある。ゲノム研究にとって大事なのはこっちのほうだ」と言う。
(2018年2月22日)
石造りの校舎の広い階段を白衣の男と降りている。男は自分の身長ほどもある乾燥ミジンコに糸を張った凧を抱え持っている。凧の帆にどんな生物種を使うかによって、予防できる感染症の種類が異なる、と白衣の男は力説するが、オカルトのようで僕は信じていない。彼はまた「NTTの番号案内には生前の番号を案内する別の入り口がある。ゲノム研究にとって大事なのはこっちのほうだ」と言う。
肘の手術を受けるため、ベッドに横たわっている。数人の看護婦が、窓際でTシャツを交換しあったり、互いに手の角度を千手観音のようにずらしたりして騒いでいる。この病院は賑やかでいいですね、と医師に話しかけるが、ラッパ形のステンレスから噴出する蒸気をたっぷり吸ってしまった僕の言葉は言葉になっていないようで、彼は理解できないそぶりをする。肘から切除された軟骨は、ベッド大のステンレスバットに投げ込まれる。食品売り場の牛モツのようにうずたかく盛られた肉の断片を、へらでぺたぺた塗り固めている白衣の男がいる。
押入れを改造した研究所で、白衣の若い女性研究員が計測器にマイクをつないでいる。小柄で肌の白い美しい彼女は、母音をあいまいに発音するのが玉にキズだ。そんなに言うなら、どのくらいあいまいなのか計ってみましょうよ、と彼女がマイクに発音した「あいうえお」には「12」という値が返ってくる。代わって僕の発音は「8」。この値は曖昧度なのか明瞭度なのか、それがわからないので、ためしに「あいうえお」をほとんど「あああああ」と発音してみると「28」という値が返ってきたのを、どうだと言わんばかりに示すのだが、彼女は自分の負けを知りながら取り合おうともしない。