rhizome: 敷居

火山岩に埋もれた古本屋

坂道のたもとで、美大生がガラス板に山火事の絵を写生している。しかし山火事はどこにも見当たらない。見渡す限り青いガラス質の火山岩が、ただごろごろところがっているだけだ。
坂道を登りつめたところに、古本屋がある。人がやっとくぐり抜けるほどの木枠の出入り口が五つあり、そのうちのひとつに靴を脱ぎ、中に入った。黒く燻された古民家の本棚を一通り漁り、そろそろ出ようとするが靴がない。ここは入った口とは違う敷居だ。靴を脱いだ出入口がどこにあるのか、迷路のような内側からは見当もつかない。ガラス窓の外を見ると、美大生の描いた山火事がどんどん迫っている。

(2008年11月27日)

扇階段

扇状の階段は上に行くにしたがって傾斜が急になり、そのうえ階段は徐々に角がとれて丸くなるので、いつ階段が段のない滑らかな大理石になってしまったのか、低温やけどのように気づくことができない。
この厄介な壁を登りつめないと、次のステージに行けない。前を行くハイヒールの女は、危うく滑りそうになりながらもなんとか小さい出口から姿を消した。ところが僕は、何度やっても滑り落ちてしまう。サポートの友人たちが、腕や足にマジックテープを巻いてくれたが効果はない。おそらく僕には無理だ、越えられない、と項垂れた頭をもちあげると、そこは扇の外だった。
そう、何も考えないほうがうまくいくことがあるのだ。腰をかがめてそこを出ると、驚くほど何もない広大な地面が広がっている。

(2006年11月15日)