海辺の高層ホテルに宿泊している。九階の部屋から一階のフロントまで降りてくると、恰幅のよい女性オーナーから宿帳を書くように言われる。今日までの分と明日以降出発予定日までの分を絵日記で記さなければならない。今日の夕方の予定は内緒なのでうやむやにしたいのだが、うやむやを描くための滲む画材が手元にない。絵で嘘をつくのは言葉で嘘をつくよりむずかしいから、とオーナーが言う。
(2012年9月30日)
海辺の高層ホテルに宿泊している。九階の部屋から一階のフロントまで降りてくると、恰幅のよい女性オーナーから宿帳を書くように言われる。今日までの分と明日以降出発予定日までの分を絵日記で記さなければならない。今日の夕方の予定は内緒なのでうやむやにしたいのだが、うやむやを描くための滲む画材が手元にない。絵で嘘をつくのは言葉で嘘をつくよりむずかしいから、とオーナーが言う。
鉄道警察は広大な吹き抜けのある建物の九階にあり、改札でカードを入れ間違えたことをさんざん詰問されたあとで、さて九階から一階をストレートにつなぐ長いエスカレーターを降りようか、あるいは撮影しながらじっくり階段を降りようか迷っている。
九階ホールには浅く水の溜まった窪地があり、そこを通過する人の上半分が、黒ゴマ豆腐の質感にテクスチャーマッピングされる。自分もその窪地に入ってみると、周囲の人が憐みの混じった奇異の目を向けるので、自分も同じように黒ゴマ豆腐化して見えていることを理解する。いや僕が可哀そうではなく、これは解釈の問題、見る側の問題なのだ、と反駁したいが石化した神話の人物のように声が出ない。
四階広場で、結婚を約束したnanayoさんが鏡に向かって髪を梳っている。これから僕の親に会うために、髪のある高さの一周だけ細かいパーマをかけている。それはきっと僕の親には理解されないだろう、と彼女に言う。