石棺の女

駒込の交差点は、車両を通行止めにしているせいかいつもより広々と感じられる。そこに儀式めいた黒い車や、霊柩車、テレビの中継車などがゆっくりと横切っていく。人の歩く速度の車列についていくように歩いているのだが、道筋はまるで廃品回収の車のようにあてどもない。テレビのモニターに映る自分の服装は、性器のあたりだけうっすら黒々と透けていて、作者の意図を重んじてそのまま放映しています、というテロップが重なっている。死んだ女性は何とか皇子といった名だが、そんな名前だったのか、もっと普通の名前ではなかったのか、と混乱しながら、一足先に彼女の家に行ってみることにする。彼女がいったい誰だったかはっきり思い出せないのは、自分の脳の連続性がおかしくなっているのだと思う。しかも目の前の女は生きていて、よしよしどうした、何しよう、まずご飯を食べようか、などと狼狽する僕をなだめてくれる。僕は平静を装いながらも、いま一番したいのは食事ではなく体をぴったりくっつけることだと言うのだが、相手の体は視界になく、体と体の組み合わせ方をいくら考えても、対象が四角い石棺になってしまい、頭の中で形が組み合わないのは自分の脳のせいだと思う。つい口にしてしまう「死ぬのって時間かかった?」という問いに「そうねぇそんなでもなかったよ」と答えた女は、死んだことが確定したとたんに顔がSamになり、涙と苦しさがとめどなくこみあげてきてどうにも止まらなくなってしまう。

(2003年7月9日)