1996春から夏  Yoshiko Sekiguchi 犬を見失う夢



(夢) と電車にのって、お花見にいった。降りた駅からとなりの駅までの間が 桜のトンネルになっていて、桜吹雪が舞う中をゆっくりと下っていく。 沿道には色とりどりの瓶に入ったラムネかレモンスカッシュのようなもの を売る屋台が連なっていて、おおぜいの人々が坂道を行き来している。道 は舗装されていない山道で、あちこちに昨日の雨の水たまりが残っている。 のんびりと坂を下っていくと、視界がひらけて大きな公園の丘が現れる。 その向こうがとなりの駅なのである。となりの駅についたらまた電車に乗 って、犬と家に帰るのだ。
そう思って振り向くと、犬がいない。坂道の下まではいっしょだったのに、 私が一瞬にして緑の芝生の丘をまたいで越えてしまったときに、はぐれて しまったのだ。これは、うかつだった。何年もいっしょに暮らしていたに もかかわらず、犬は丘をまたぐことができないのを忘れていたのである。 大変なことだ。もしかしたら、公園の丘の反対側の道をたどって、ゆっく りやってくるかもしれないが、これだけの人が花見に出ているのだから、 うろうろしている間に迷子になってしまうかもしれない。
しかし、困ったことに私は帰りの道は丘をまたいで越すことはできないの である。丘の北側か南側を回り込んで、もとの山道までもどってみるしか ないのだが、そのあいだに犬が丘を越えてとなりの駅に着いて電車に乗っ って帰ってしまったら、こんどは私が迷子になってしまう。
犬はどっちがわを回ってくるのだろうか。
うまくおちあえるとよいのだけれど。
(〜夢)

犬は大きなゴールデンレトリーバーで、ちょっと歳をとっています。


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