電車は、高い丘の上から発車した。東京を一望しながら、ゆっくりと電車は芝生に囲まれた美術館を横切る。この電車に乗るのは初めてだが、こんなに気持ちのいい景色なら、ちょくちょく乗ってもいい。
ジェットコースターのような構造の車両の、後ろのボックスに、男の子が数人乗っている。そらまめのような形の大きい頭の男の子が、ボックスから落ちそうなので、彼を自分の前に座らせ、落ちないように両足でしっかり支えてやる。
そうこうしているうちに、自分のボックスだけ脱線して、普通の道を走っている。なにしろ動力がないから、坂を降りる弾みを利用して、坂を登るしかない。これで、目的地まで行き着けるだろうか。
そらまめの頭の彼は、近所の養護施設の子供で、名札を首からかけている。途中にある病院に寄って、その施設に電話をかける。
なんとか自力で、後楽園のレールまでたどりついた。駅員に「この電車は途中で脱線した」と抗議する。そらまめの彼は、もう一人いた友人のことを気にしている。彼が知り合いの男の子に尋ねると、「あいつ、弱っていたから、死んじゃった」と言う。