On THE PIXEL, Under THE PIXEL

4. とんでもEスポット―地元FM局の野望―

『Cape-X』 Oct. 1995 掲載

中村理恵子

 

about this series


6月10日大安、地元FM放送局を発見。なぜこの日付を覚えているかというと、それがわたしの父親の誕生日だから。(この書きだしフォーマットは、前号のお隣のをいただいた。)わたしは、テレビを持ってない。アントニオ猪木が出馬した時、その選挙運動の模様を映した画面が急に暗くなった。きっと寿命だったんだと思うけど、中心に向かって画像が吸い込まれてプツンと切れてしまった。それ以来テレビなし歴、数年。コンピュータがテレビになる昨今だけど、無理してテレビ文化をコンピュータの仕事環境にもってくる気持もいまのところナシ。もっぱらラジオを利用している。目と指は、たかたかコンピュータに集中し、耳はラジオと遊んでいる。わたし、ラジオ大好き。お気に入りのチューニングポイントもいくつかある。その時の気分で心地よいスポットを決めている。でも、あ る日ちょっと指がすべった。いつもならその地点は、砂の惑星に降り立った時のような「ザァー」という砂嵐が吹いてるはずなのに、いきなり澄んだ人の声が飛び込んできた。わずか数ミリ左には放送大学が在る。てっきり、このラジオ大学の帯域が増したのかとおもったが、どうも雰囲気が違う。もちろん外国放送ではない。ちゃんと日本語に聞こえる。しばらく様子をうかがおう。やがて正体を現すだろう。固唾を飲んで待つこと数分。さて、そろそろ素性を白状してもいんじゃないの?お得意のキャッチフレーズを吐いてもいいころあいじゃない?

『FMたまぁ〜Gうぃんどぉ77.6キロヘルツ。FMたま〜100万人キャンペーン!スタジオに遊び来て番組に参加しませんか?!あなたの声をオンエア。』

そらきた! しかし、なんとまあ。地元にFM局ができたんだ。

以来このスポットに3日間常駐する。視聴者からのリクエストを読み上げるディスクジョッキーは、正確にわたしの毎日歩き回る地名や近所の出来事、角の酒屋のオジサンがいきなりスポンサー様になってるとアナウンスしてる。べつに親戚でもないのに超照れる。情報の一粒一粒にすべて反応してしまう。駅前サテライトスタジオからの実況放送には、なんとあの有名なCCガールズがゲストで来ているらしい。行こうと思えば数分で駆けつけることができるぞ。どんどんへんな気分になってきた。あまりに情報の内容が近すぎるのだ。ラジオやテレビといえば、わたしらの日常とは、たいして関係のない、だいたい皇居を中心にした半径2〜3km以内の情報をなんだかとっても眩しく、深刻に提供するものだと思っていた。それに比べると、100万人の聴衆を巻き込みたい地元FM局からの発信は妙にリアルだ。今日もディスクジョッキーの面白い言いわけが、親しみをこめてわたしの部屋に響く。

「小林旭さんの曲をリクエストいただきましたが、局にありません。そこで、一時ご夫婦だった美空ひばりサンの‘真っ赤な太陽’をおかけします!!真っカに燃えたぁ〜太陽をだーからぁ〜」

この程度の不手際は恥ではない。地元情報のくすぐったい距離感覚を経験させてくれるんだもの。大目にみようじゃないか。

(Oct.1995)


 

 

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