rhizome: 鰯

食物連鎖ワークショップ

最上階まで吹き抜けになったコンクリートの内壁に、ところどころ抉られた窪みがあり、人が嵌って本を読んでいる。よく知っているはずの建物なのに、この眺めに見覚えがない。水越さんに電話してみると、そこは同じ情報学環でもドメインが違うと言われる。自由落下式のエレベーターで地下まで降り、そのままJの字を描いて隣の吹き抜けに飛び出る。
床いっぱいに広げたロール紙に、何人かボールペンで絵を描く人がいる。それぞれ自然界の何かになり、紙の中にそれを描いていく。それぞれの役割に入出力があり、他のインプットに向かって矢印をつないでいくのだと鳥海さんが言う。僕はイワシであることを宣言し、群がるイワシをいくつも描いた。それぞれのイワシから出る矢印をクジラの目につなぐと、鳥海さんが意外そうに「目なんだ」と言う。

(2015年3月30日)

孤独なオフライン

ホテルマンの森田が彼自身の自腹三千円を足してまで用意した宴会場にたどり着くと、テーブルに嵌め込まれた生簀になみなみと張られた油の中で、マグロほどもある大きな鰯が素揚げされている。
せっかく特別な席が用意されているというのに、仙台のグループは運ばれてくる上等な料理を放置したまま二階の箱席で密談をはじめてしまった。ネットで知り合った仲間たちは、リアル空間での協調性がまったくない。テーブルをはさんで座った女の首から乳房にかけて広がる静脈の河川地図に見とれていると、あなたの下の句は発情したオスのように原発を肯定している、と糾弾される。小便を漏らしたので自宅で着替えてきたという別の女は、間仕切りに残した粗相の痕跡を隠そうとするが、逆に誇示しているように見えるのは、それがマーキング行為だからか。仲間たちはかくのごとくばらばらで、集団としての統一を欠き、そのうえ一般客も混じっているこのフロアで挨拶をはじめると、どう笑いを取ろうとしたところで狂人の演説にしか見えない。僕はなげやりになり、精緻なステンレスメッシュで包まれたガラス玉をバネで弾いてバスケットに入れるゲームに興じ、短時間でかなり腕をあげた。

(2012年11月14日)