rhizome: 祖母

キソさんの胸元

玄関の鍵をかけ忘れたまま眠ってしまったので、女たちが何人も入ってきて台所に溜まっている。部屋の隅で眠っている祖母のキソさんが起きてしまわないようにキソさんに覆いかぶさると、ニッキの匂いがする。正面から抱き合ったキソさんは、明るい白地に花柄の空間を胸元に抱いている。これから死に行く人の内部はこのように明るいのだ。

(2015年9月16日)

目白台高原喫茶

内田洋平と瀬川辰馬が、それぞれ縄梯子の一段を補修パーツとしてビニール袋に入れて所持している。僕はこれから栃木の祖母に会いに行く。彼らはこれから日経ウーマンのプロジェクトが忙しくなるので、なかなか会えなくなると言う。それではどこかで茶でも飲もうということになる。
新宿から山手線に乗り、目白の坂を登るところで電車はロープウェイに切り替わる。目白の垂直に切り立った岩場には、蔦の密生する廃屋がめり込んでいて、彼ら二人はどうやら廃屋内部を梯子で登り始めたようだ。廃屋最上階にある崖っぷちの喫茶店に入り、箱と番号が一致しない下足札を渡され、濃厚すぎるウィンナコーヒーを立ち飲みしながら彼らの到着を待っている。

(2013年8月20日)

紙束の封印を解く

大理石で作られた建物の一室で、kiharaはA4コピー用紙の束を解こうとしている。その紙は不自然なほど漂白されて青白く、しかもスプレーの銀イオンと、脳の快楽物質をたっぷり含んでいる。これを世界に放つのは悪魔の封印を解くことにほかならない。それは僕もkiharaも承知していて、しかしそれを止めるつもりもなく、紙が青白い光を放ち始めるのを見ている。
僕の手元には一枚の絵葉書が届いていて、死んだ栃木の祖母の字で、この前たっぷり話したのでとても愛おしさが増しているよ、と書かれてある。

(2008年2月29日)