rhizome: 油絵具

極彩色の泥屋根

街道と旧街道に挟まれたベルト地帯に、泥濘んだ土地が広がっている。街道に面したガレージに入り、裏口を抜けて泥濘の土地に足を踏み入れる。ベルトの中ほどまで歩いたところで、全身に泥を塗った裸部族に出会う。裸族の少年たちはもつれあい、一人の少年の顔をめり込むまで殴っている。僕は、彼らの風習に口出ししないと心に決めている。それは文化人類学の掟だから。
旧街道までたどり着くと、泥と油絵具の二色ソフトクリーム状の尖塔が見える。この城をスケッチした覚えがある。ノートを捲り当てると、尖塔に「非常識な配色」と注記があり、ページの隅には「4日5日引っ越し予定」という走り書きもある。業者との約束が二日後に迫っていることに気づく。

(2013年11月6日)

冷凍花束

窓に差し込む照り返しが季節によっていろいろな色に変わる理由を、今日まで考えたことがなかった。大きな花壇のある隣家の住人が、明日引っ越すということで挨拶にやってきて、この家の花が季節ごとに色を塗り替えていたのかと得心する。お別れの寂しさを保存するには生より冷凍のほうがいいから、と言って凍った切花をくれた。
あの花壇はどうするのですか、と訊ねると、卒業して離れ離れになる人々が記念撮影をするのでそのままにしておくと言う。霜のついた脆い花びらを壊さず解凍するにはどうしたらいいか考えていると、卒業する人々から次々凍った花をもらい、大きな霜の花束になってしまう。
荷造りでごった返している隣家を覗くと、塀に大きな穴があいていて、その向こうに広がる極彩色の庭には、厚く塗られた半乾きの油絵具が、植物として繁茂している。

(2001年12月17日)