金子仁美さんが Illustrator で書かれた楽譜を見せてくれる。黒い図形がレイアウトされているが、音楽自体はダークマターで書かれているので譜面には現れていないという。それじゃ永遠に演奏できないのでは?というと、それでも楽譜の20%はダークマターの影響を受けている、という。
暗黒物質音楽
(2018年3月7日)
金子仁美さんが Illustrator で書かれた楽譜を見せてくれる。黒い図形がレイアウトされているが、音楽自体はダークマターで書かれているので譜面には現れていないという。それじゃ永遠に演奏できないのでは?というと、それでも楽譜の20%はダークマターの影響を受けている、という。
サキちゃんのお兄さんが針を演奏するという。巧みに針を投げ、宙に浮く間どこにも触れていない針はそれぞれの音の高さで鳴る。遠目に黒っぽいほど音符だらけのベートーヴェンピアノソナタの楽譜を見ながら、彼は音符と同じ数の針を宙に舞わせ、同じ放物線を描く針の一群をシャーンと和音にまとめあげる。
プロコフィエフ作曲「圏外のための弦楽合奏曲」が、古民家の四階にある居酒屋で演奏される。卓に貼りつけてある解説シートには「楽譜に明示されていない和音を聞くための音楽」と題されたテキストと、アンテナの立っていない圏外マークが印刷されている。
黒光りする板の間で、黒服の奏者たちは車座になって演奏を初める。ヴィオラを弾く脳科学者は、ひとりだけ普段着のままだ。声をかけると、演奏のじゃまをするなと目配せで答える。
飲み屋の客たちは競って大声で会話するので、音楽が聞こえない。大声で逢引きする密会中の男女もいる。名刺大のレジ袋を差し出してきたプチプチの川上社長に、大げさな身振りでお礼をかえす。袋の中を見ると一万円札風のイラストが入っている。
ふとすべての会話が途切れ偶然訪れた数秒間の静寂に、弦の残響のような音楽が初めて聴こえた。
河口付近の三角州地帯に住んでいると、ラッパ形の噴出機が絶えず砂を撒いているので、自分の敷地と他人の敷地の境界線はいつも砂に覆われしまう。いつのまにか部屋に紛れ込んできたルームサービスが、冷蔵庫をあけて「ビールはいかがですか」などと言うが、それは僕の私物だ。靴底でベランダの砂を払うと黄色い地面があらわになり、そこには小節の区切り線があらかじめ引かれた五線譜がある。