ダミーの書物を売るために、友人と街角に立っている。本が目的ではなく、本に挟んだコピーを拡散するのが目的だ。しかしいっこうに売れない。若妻と友人と3人で、新しい住まいへ向かおうとする。方向もわからずにいると、軽トラックでやってきた赤ら顔の不動産屋のおやじが、僕が荷台に隠れて乗るなら現地まで乗せてやるという。谷に面する木造アパートは、構造も窓からの眺めもよく知っている。死んだ友人がかつて住んでいたからだ。ひとつ奥の不思議な間取りのメゾネットに、友人と訪れたこともある。若妻は家賃の書かれた壁のプレートを探している。僕は、友人の記憶が本当の記憶か、かつて見た夢の記憶なのか、夢にさえ根拠のないデジャヴなのか、それがだんだんわからなくなる。
rhizome: 木造
未来火災予知
自分の家が火事になる未来が予知できたので、荷物をあらかじめまとめて外に出し終わったところだ。隣の駄菓子屋はヒノキの匂いのする木造で、かすがいのない構造のため、軽く押しただけで平行四辺形にひしゃげてしまう。これはあらかじめ畳んでしまったほうがいいかもしれない。119番に通報するが、未来の火事については受け付けないと言われ、憤慨するうちに遠方の自宅から火の手があがり、それみたことかと電話を切る。
鏡像触診
若い女医が、私を触診すればミラーニューロンを介してあなたが治癒するというので、女医の首を抱きかかえて髪を撫でながら自分の痛みに相当する肩のあたりを触ると、確かに自分の痛みが消えていく。床に張り付いている電気工事の男がこちらを見上げている。工事の男は、並んで歩きながら、ずっと彼女を見続けているがなんでああいう治療をしているのか、お金のためなのか、もっと深い意図があるのかよくわからないと言う。工事の男は木造の一軒家に、板塀をすり抜けてすっと消えた。
上板銀座のあちこちが更地になっていて、いよいよ開発が始まるのか、いままで見えなかった奥まった家の側面が露出している。更地の前はここに何が建っていたのか、もう思い出せない。この道を歩き抜ける動画を撮っておけばよかった。いや、今からでも遅くないか。
木造合宿
高層の日本家屋は、築何十年になるのか誰も覚えていないほど年季が入っていて、あちこちの軋みが繰り上がって最上階に集まってくる。窓を開けると、はるか地上の広場に駐車してあるはずの車が、目の高さの蜃気楼として見え、薄もやに僕自身のブロッケン現象が影と虹を落としている。
夜の宴会で、ひとりだけ浴衣に着替えた茂木健一郎となにやら話をする。彼は、窓を十センチくらい開けて小便をしている。寝床に帰ろうと最上階の部屋へ行くと、部屋割りとは関係なく布団が敷いてあり、僕の部屋には大人用と子供用の布団が一枚ずつ。これは、どこかの家族に割り当てられたに違いない、と確信するが、子供用の布団にはすでにNHKの背の小さい人が潜り込んでいる。いくら小さくてもそこに寝てしまっては困る家族がいるのではないか。