rhizome: 孕む

出産宴会

自分の下腹部に、何かが下方向に一段ずずっと降りてくるのを感じたのは、円卓を囲んだ宴会のさなかだった。ついに生まれるのか、という思いは、なかば未体験への恐れと、やっとこれでこの腹のふくらみから解放されるのだという期待とがない交ぜになり、冷や汗が出るほど混乱している。マイクを持った友人が、男でありながら子を産もうとする彼の勇気はすばらしいが、決して自分はそういう馬鹿な真似はしないであろう、と賞賛とも揶揄ともつかない挨拶をしている。いよいよ腹部に違和感を感じながら、しかしもしこの圧迫感がたんなる便意だったら、どうやってこの場をしのいでいいのか不安になる。

(2004年4月27日)

イクラのありか

コンクリートの地下にある埃っぽい部室で、秘密結社めいたサークルの連中がそれぞれの行為に没頭している。天井から吊った針金でスルスルと自在に上がり下がりを繰り返す男が、そろそろ健康診断が始まると言っている。半田ごてを握った男は、どんな大出力でも壊れないスピーカーに、百ボルトの電灯線を直につないで「なかなか頑丈だね」と感心する。僕は男子生徒女子生徒が混じるトイレで、検査の尿を採取するように言われる。こんな健康診断は、どうせ予算消化のためにやっているに違いない、役人の考えることといったら、と憤りながら、ふと自分がイクラを孕んでいることを思い出した。毛細管に危うくつなぎとめられたひと房のイクラを、ペニスの先の包皮で包んで、壊れないように注意深く抱え込んでいるのだった。こんなところにイクラを隠しているのがばれたら弁解が面倒だし、第一恥ずかしい。誰にも知られないことを願いながら、拭い取ったティッシュごと赤橙色の塊をごみ箱に投げ入れた。

(2002年4月4日)