rhizome: 駅

脱線ジェットコースター

都営の電車は運賃80円。しかし、回数券には70円と90円しかない。70円を切り取って10円足して切符を買う。切り離した90円はもう無効です、と言われる。釈然としない。
小高い丘を降りかけたところにある駅から、電車は出発した。芝生に囲まれた美術館を横切り、東京を一望しながら走る。この路線に乗るのは初めてだが、こんな気持ちのよい景色ならちょくちょく乗ってもいい。
ジェットコースターの構造をした車両の後ろボックスに、男の子が数人乗っている。そらまめ形の頭の大きい男の子がボックスから落ちそうなので、彼を自分の前に座らせ、落ちないように両太ももで支えてやる。
そうこうしているうちに、自分のボックスだけ脱線して、普通の道を走っている。なにしろ動力がないから、坂を降りる弾みを利用して坂を登るしかない。これで目的地まで行き着けるだろうか。
そらまめ頭の彼は、近所の養護施設の子供で、名札を首からかけている。途中の病院に寄って、名札にある施設に電話をかけておいた。
なんとか自力で後楽園のレールまでたどりつくことができた。駅員に「この電車は途中で脱線した」と抗議する。そらまめの彼は、もう一人いた友人のことを気にしている。彼が知り合いの男の子に尋ねると、「あいつ、弱っていたから死んじゃった」と言う。

(1996年7月14日その2)

万能チップ

1.5cm角の四角いセラミックの板は、キートップでもあり、CPUでもある。これを10枚テンキーのように並べた携帯電話を夏っちゃんが持っている。僕は「1枚でも十分機能する」と主張する。
モリワキさんと目白から高田馬場方向に歩いている。広い道に真っ青な空、建物もあまりない。一駅歩くにしては、ずいぶん時間がかかる。「きっと、すごく遠回りをしてるんだ」と話しながら歩いている。

(1996年7月14日その1)