飲み屋の隣に座っている黒服の男が、店の裏手に放置されたアナログレコードプレーヤーから抜いてきたバッテリー(ほかにもっとレアな部品があったろうに…)をポケットにねじ込む。彼は掌に乗るほどの小さい家の模型にストローをあて、らせん状にほどける外壁をするする吸い込んでいく。家はみるみる低くなる。ふたたびストローから紐が射出されると、前とは違う家が出来上がっていく。
(2017年12月19日)
飲み屋の隣に座っている黒服の男が、店の裏手に放置されたアナログレコードプレーヤーから抜いてきたバッテリー(ほかにもっとレアな部品があったろうに…)をポケットにねじ込む。彼は掌に乗るほどの小さい家の模型にストローをあて、らせん状にほどける外壁をするする吸い込んでいく。家はみるみる低くなる。ふたたびストローから紐が射出されると、前とは違う家が出来上がっていく。
居酒屋の二階で、新田君はブルドッグのようにたっぷりとした顎を床板に乗せ、体を冷やしている。彼が結婚したことを母から聞いていたので、新居はどこか尋ねると、城北高校の近くだと言う。その場所はよく知っているよ。
新しい家のいちばん奥の部屋には、壁に塗りこめられた螺旋階段があり、それは各階につながっているので、ときおり上下の住人が行き来するのが見え、部屋に紛れこんでくることさえあると言う。設計者はプライバシー感覚の革新を狙っているのだが、思想が壁に塗りこんである家に住むのはごめんだね、と新田君が言う。
建築プランが書かれた紙を、西田さんはマンションの屋上まで運び、堆積したさまざまなものの中に埋めてしまおうとしている。そのプランとは、まず両の掌を宙にかざし、しだいに顔に近づけるとそれは見えにくくなり、しまいにすっぽり頭部を包囲すると掌ごと完全に見えなくなる、という建築作品。