幸村さんが、宇宙エレベーターより簡単に宇宙へ行く道を見つけたと言って、大型ドラム式洗濯機の蓋を開け、江渡さんといっしょに宇宙へ旅立った。しかしあまりに普段着なので、世の中の反応がいまいちなのだという。東大の博物館で待ち合わせた木原さんとあれこれ広報戦略を練るが、結局このままでいいと言う結論に至る。
(2015年9月25日)
幸村さんが、宇宙エレベーターより簡単に宇宙へ行く道を見つけたと言って、大型ドラム式洗濯機の蓋を開け、江渡さんといっしょに宇宙へ旅立った。しかしあまりに普段着なので、世の中の反応がいまいちなのだという。東大の博物館で待ち合わせた木原さんとあれこれ広報戦略を練るが、結局このままでいいと言う結論に至る。
壮年の幸村氏を訪ねると、自宅の下に広がる傾斜した地下洞窟へと案内される。地下水の流れる沢を、K氏は岸から削り出したわずかな足場を伝って器用に進むが、僕にはどうしても渡れない狭い場所がある。洞窟のあちこちにラジカセや物置などが無造作に放置されているのは、子供のころからここが自分の家の庭だからだ、とK氏は主張する。
ところどころ地上に空いた穴から、光が差し込んでいる。傾斜のいちばん高い所に開いた穴は、駅からここに来る途中の道で見たマンホールほどの穴に違いない。上から覗き込むと、岩場に水が流れて見えた。
K氏は物置から自作のヒラメを出してくる。ヒラメの体を触ると、位置によってさまざまなだみ声を発する。抵抗を計る方式では精度が出ないから、教授の助言で無数のスイッチに作り変えた。声は世話になったその教授の声だ、とK氏が言う。しゃがれたテナーサックスが吹く「四季・十月」が、だみ声と混じりながら洞窟に響き渡る。こんな場末の酒場のようなこてこてのチャイコフスキーは聴いたことがない。
暗くて巨大な講堂の内部に、轟々と流れ落ちる幅の広い滝があり、滝の裏面を内側から望む小屋の中に、幸村真佐男さんが住んでいる。それを僕は、講堂の天井の梁から見ている。