rhizome: 夢の記憶

デジャヴ・アパルトマン

ダミーの書物を売るために、友人と街角に立っている。本が目的ではなく、本に挟んだコピーを拡散するのが目的だ。しかしいっこうに売れない。若妻と友人と3人で、新しい住まいへ向かおうとする。方向もわからずにいると、軽トラックでやってきた赤ら顔の不動産屋のおやじが、僕が荷台に隠れて乗るなら現地まで乗せてやるという。谷に面する木造アパートは、構造も窓からの眺めもよく知っている。死んだ友人がかつて住んでいたからだ。ひとつ奥の不思議な間取りのメゾネットに、友人と訪れたこともある。若妻は家賃の書かれた壁のプレートを探している。僕は、友人の記憶が本当の記憶か、かつて見た夢の記憶なのか、夢にさえ根拠のないデジャヴなのか、それがだんだんわからなくなる。

(2018年6月19日)

肺呼吸からエラ呼吸へ

宇宙服を着ている。首回りの防水リングにはまだヘルメットが取り付けられていない。重い宇宙服を引きずるように二階まであがってきたのだが、手は読みかけた雑誌を握っているし、まだ小便もしたい。いろいろ覚悟ができていない。これから僕の頭部にはガラスの球形ヘルメットが被され、内部に液体が満たされ、肺呼吸からエラ呼吸に変わるにつれて小便も自然に排泄され、書き取る前に取りこぼしてしまう夢と同じように、水溶性の記憶だけ水に溶けだしてしまうはずだ。

(2013年7月31日)

バナナシュビドゥバ

十ある課題をクリアすれば、この巨大な建物群から抜け出せることはわかっている。八つ目までは(それがなんだったか思い出せないが)なんとか切り抜け、九つ目がいままさに解かれようとしている。それは、短い黒髪の女性を発見して救い出すという課題。肩に小さい刺青のある女性は、宗教上の理由からそれを外套で隠さないと絶対に動けないと主張する。やむなく僕は天井から縄で女性を吊り上げ、ドラム缶へ格納することに成功した。すると彼女は、次の課題の答えをまんまと教えてくれたのだった。建物の屋上伝いに、彼女の教えてくれた店にたどり着くと、暗い極彩色のペンキでぬり分けられた店内にウサギのウエイターが迎え入れてくれる。「バナナシュビドゥバ」という短調のテーマ曲が執拗に繰り返されている。この夢といっしょにこの歌を採譜せねばと、何度も頭の中で音符を書いたが、すぐに記憶が消えてしまう。

(2006年9月22日)