青錆色の書物

僕とその女は、それぞれ自転車に乗って長い坂道を降りている。僕たちは、ある使命を帯びているために、こうやって急な坂道を猛スピードで下っているのだ。
坂道の終わりに、土をうずたかく積み上げた本屋がある。ここで扱う本はすべて青錆色の砂鉄で、注意深く掌の中央に集めていかないと、吹き飛ばされてしまう。「知識とはほんの一握りの青い磁性を帯びた砂粒にすぎない」と砂鉄製の本に書いてある。
われわれは何冊かの本を汗ばんだ掌にくっつけたまま、さらに自転車に乗って、広大な公園に到着する。地面から半ばあらわになった半径数十メートルの赤い陶板をコースにして、彼女の自転車は巡回軌道に入った。それが、彼女のみつけた使命なのだ。僕もまた、そのような色つきのコースを発見すべく公園を走り回っているのだが、なかなか見つからない。公園を監視する正装の男が見かねて、僕を青い陶板の在り処に連れていこうと手招きしている。

(1998年6月7日)