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7. 犬の夢

『Cape-X』 Jan. 1996 掲載

中村理恵子

 

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ファーストフードで、テリヤキバーガーかじりながら、眼下の駅構内を眺めていた。ウーロン茶をストローでずりずりすすると脳ミソに振動が伝わってけっこう気持ちいい。なんて思いながら、ぼぉっと焦点のあわない視線を這わせていると、みんなの動きとは違うユニットが視界に入り込んできた。

ベージ色の短い体毛をしたリトリーバー犬と、同じ様な色のユニフォームに身をつつんだ40代前半の男性。犬には、首輪の他に特徴的な器具を腹から背中かけてぐるっと抱え込むようにしてしょわせている。それが、ハーネスとよばれる盲導犬専用のものであることはすぐにわかった。犬を連れてる男性は、健常者である。どうもこのユニットは、盲導犬の訓練士と盲導犬の候補生であるらしい。

ワン君の今日の課題は、ご主人が切符を買う時、いかにサポートするかということらしく、何度か券売機のところまでいき、手前でピタっと止まる動作を練習している。ひきつづいて、顎から鼻先までをべたっと券売機の下の縁につけて、ご主人にお金の投入口を教える訓練に入った。ワン君、ここでちょっと動作をミスった。するといきなり教官のビンタがワン君の後ろ足の付け根付近にとぶ!「きゃいん」(おぅっ、痛そう)。ワン君、おびえた目をして再度挑戦。今度は大丈夫。うまくできた。すると教官、手のひらかえして、目頭、鼻先をこれでもかというくらい愛撫する。ワン君は、しかし、緊張をゆるめることもなく、歩きだした教官の左足を常に意識しながら、ぴったり寄り添い、チロチロ人間の足、顔、足、顔と交互に忙しく目配りする。

一緒にいた連れが、しみじみいった。
「盲導犬にはなりたくないなぁ。」
でも彼らは、エリートなんだよね。頭や性格の良さだけでなく、遺伝的な形質まで審査されてしまう。例えば、口の脇の肉がちゃんと歯茎にそっているか?なんて。でろっと垂れ下がった口元は、ヨダレを流しちゃうからダメらしい。

これみた数日後、犬の夢をたてつづけにみた。どちらも共通して犬の終えんを描いた もの。

その1.ぼろぼろの犬 わたし、急な坂道の途中で休んでいる。空気希薄な、たぶん、アジアの何処か。坂の上のほうから大きな老犬がよろけながら下りてくる。毛はちぢれた白色で、まるで羊のよう。ところどころ毛が抜けて禿げてる。地肌が不思議な空色をしている。顔は、ライオンみたいで、目は、オーソン・ウェルズにそっくり。その老犬が寸でのところまできて、バタリと倒れた。

その2.黒こげの犬 子供達がドングリを弾にしてパチンコをしている。(夢だから意味不明)小高い丘の上から一気に駆けおりていくと、昔住んでいた家の前に広がる原っぱに出た。なぜか、つながれたままの犬が1ぴき、焼け焦げて死んでいる。ひぇ〜。

以上、素っ気ない夢のお話。

(Jan.1996)


 

 

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