rhizome: 飯

3D印刷された競技場

空軍を退役しコックをしている私を、彼は二人乗りステルス機のパイロットとして雇い入れたいと申し出る。ホテルのフロントに、囚人服風のTシャツが届けられる。これを着ても、彼の思い通りになるつもりはない。その意思表示のため、私は三角形の小型機に彼を乗せ、ぎりぎり海面をかすめて飛び、ブロッコリーの内部を曲芸飛行で切り抜けた。ブロッコリーの森には、下草ブロッコリーの入れ子層があり、完成間近の国立競技場もそこに生えている。3Dプリンタによって不当に早く完成に近づく国立競技場を、私も彼も快く思っていない。その点で私と彼は、大いに意気投合している。
完成記念パーティーに出された酒のあとのご馳走は、陶器のオーブンで炊いた白いご飯だった。

(2013年10月25日)

退化する猿

突然、彼女は着替えをはじめた。こんなチャンスはめったにないのに、僕はこの部屋に居続けるわけにはいかないのだ。すぐにでも猿のところに帰って餌をやらないと、猿が飢え死にしてしまうからだ。後ろ髪を引かれる思いで、僕は部屋を後にする。
道々すれ違った杉山教授が、片手に鮭の入った握り飯をいくつか持っている。僕がせがむと、杉山教授はしぶしぶひとつ分けてくれた。
猿に鮭の握り飯を与えると、彼はまたたくまに平らげた。そして、その瞬間から彼の退行がはじまり、順次下等な生物に変身しはじめ、ついには数ミリの二体のホタルイカになってしまった。王冠状の足が互いにかみ合いながら美しい光を放っているのを、僕は悲しいような嬉しいような気持で眺めていた。

(1997年6月2日)