rhizome: 囚人

中庭のサスペンス

マンションの中庭はあまりに広いため、中庭の中に入れ子のようにマンションが建ち、鳥海さんがそこに引っ越してきた。四階建ての壁面全体がスライド式のドアで、ゆっくり音をたてて開くと、エントランスから彼女が出てきた。どんな様式も行き着くところまで行くのよ、と鳥海さんが言う。今夜はゆっくり積もる話をしようと約束したきり、彼女もマンションも見失ってしまう。谷のような中庭はその特性を生かして最新の放逐型刑務所になっている。ここで囚人は、閉鎖した谷の中にいる限り自由にふるまえる。看守と少女が雪かきをしている。その様子を仲間と見ていると、少女が看守に雪をかぶせ、密かに殺害してしまった。

(2014年9月2日)

3D印刷された競技場

空軍を退役しコックをしている私を、彼は二人乗りステルス機のパイロットとして雇い入れたいと申し出る。ホテルのフロントに、囚人服風のTシャツが届けられる。これを着ても、彼の思い通りになるつもりはない。その意思表示のため、私は三角形の小型機に彼を乗せ、ぎりぎり海面をかすめて飛び、ブロッコリーの内部を曲芸飛行で切り抜けた。ブロッコリーの森には、下草ブロッコリーの入れ子層があり、完成間近の国立競技場もそこに生えている。3Dプリンタによって不当に早く完成に近づく国立競技場を、私も彼も快く思っていない。その点で私と彼は、大いに意気投合している。
完成記念パーティーに出された酒のあとのご馳走は、陶器のオーブンで炊いた白いご飯だった。

(2013年10月25日)