rhizome: 鉛筆

ニュー狭山湖

赤羽線のガード下をコンクリートで固めて、防護服の男たちが白い塗装を猛烈に噴霧している。地下に抜ける鉄の蓋は、塗装が厚くなれば開かなくなってしまうだろう。この穴から地下の人たちに食事を投げ込まなくてはならない。貸本屋の女主人に、ビニールコートの背表紙に鉛筆の筆跡が裏移りしている、などとやかく言われ憤慨する。これを下敷きにした覚えはない。そう思いつつ、灯りの反射で照らし出した文字跡は、確かに自分が地下に宛てた手紙の一部だ。

赤羽駅のひとつ手前は山岳鉄道で、急な勾配を登るとニュー狭山湖が見える。万里の長城のような道の欄干から西日に光る湖面を眺めていると、勇樹に中台じいちゃんが死んだと伝えられる。だいぶ前から覚悟はしていたが、不意をつかれて涙が込み上げる。しかし、中台じいちゃんは30年前に死んだのではなかったか。

(2014年10月18日)

ジンジャーと樹の思い出

管理人のじいさんの名前が思い出せないので、とりあえずジンジャーと呼ぶと振り向いた。彼と話しながら、中庭にあった巨木のことを懐かしく思い出した。白いコンクリートの擁壁に登って巨木を見たことがある、と僕が言うと、切り倒してしまった巨木を中庭の見取り図に丁寧に書き加えれば、木が再生するかもしれない、と彼が言う。「樹皮も丁寧に描く必要があるだろう」そう言って、ジンジャーは鉛筆を丁寧に削ってくれた。

(2014年10月11日その3)