夏っちゃんが語る恋人の話を聞きながら歩いていると、いつのまにかビロード織の内装が施された特別な車両に迷い込んでしまう。NTTに平衡感覚を乗っ取られて歩行が誘導されているためだ。コントロールのリンクを外して脱出すると、今度は工作機械に囲まれてどこにも通じない通路に嵌ってしまう。自分の意思でこの結果なら、他人まかせにしたほうがまだましだ。スチールワイア工具一式が入ったコンテナを避け、通路を開けて食堂に入り、おばさんに今日のおすすめはなにかたずねるとメニューを渡される。メニューのそれぞれの項目に、サンプルがセロテープで貼りつけられている。サンプルの影で料理の名前は見えないが、アルファルファのひとつまみにすりおろした林檎を和えたこの一品は、絶対に旨いはずだ。
(2017年4月23日)