rhizome: 着ぐるみ

クマカップル

幾重にもニスで塗り固められた古い校舎に、NHKの仕事で来ている。同じ仕事をしている和登さんとともに、クマの着ぐるみを纏って廊下を歩く。女グマの和登さんは、廊下の波型の壁にかたかたと爪を立てて機嫌が良い。「汗をかくのでお風呂に入りたいね」と女グマが言うので、「クマ同士二匹で入ろう」と誘いかける。ヒトとして誘ったつもりなのだが、クマとして着ぐるみのまま風呂に入ることになる。
透明なビニール風船でできた仮設ハウスの中で、子供たちは女グマともつれるように遊んでいる。空気穴からビニールの中に入ってみると、外見は同じクマなのに子供が寄ってこない。女グマはなぜかおねえさんと呼ばれ人気がある。首の継ぎ目や袖口など、着ぐるみのどこから内部情報が洩れるのかチェックするが、理由がわからない。

(2012年10月25日)

乳首頭(ちくびあたま)の挨拶

姿形は土地の人間なのだが、自分はまったく違う世界(たとえばほかの星)からやってきたのだ。何度もそう自分に言い聞かせながら、だだっ広い校庭を歩いている。反復していないと、そのことを忘れてしまうので。
プレハブの建物がある。中には、同胞が集っている。彼らもやはり姿は普通の人間なので、お互いに確認し合うために集まっている。ドアを開け中に入ると、強力な換気扇が空気を外に排出しているため、気圧が低く息苦しい。それが同胞にとって快適な気圧なのだ。
校舎に入る。そこにいる同胞は、姿形は人間なのだが奇妙な着ぐるみを着ている。あるいは、その着ぐるみの形態がわれわれ本来の自然な姿なのかもしれない。着ぐるみの頭はねずみやリスのようで、尖った先端に茶色い鼻が無造作についている。鼻は乳首の先端のようにも見える。その鼻のような大きい乳首のような何かを、お互いに何度か口で吸いあうのがわれわれの挨拶だ。

(1996年6月19日)