rhizome: 斬首

粘土戦争

中華料理屋の二階に、粘土頭の侵略者たちが刻々と迫っている。僕は藍色の子供を抱いて、滑り台の浅い溝に身を隠している。仲間たちは京劇の楽器を鳴らして粘土頭たちを威嚇しはじめたが、しかしいずれは捕えられ、頭を粘土に挿げ替えられることを覚悟しはじめている。僕はその子供を連れて押入れの奥に逃げ込むが、粘土頭の王(わん)さんに見つかり、私はあなたがたをかくまうから声を出さないでそこにいるように、私はみんなからお父さんとよばれているから、と言われる。
数年の後、久しぶりに藍色の子供が声を出すと、遠くから「その声は民枝か」という夏ばっぱの声が返ってくる。中華料理屋のテラスでは、粘土頭と講和を結んだ首相を仲間たちが囲み、不平等条約を糾弾する声をあげる者もいる。

(2013年9月26日)

振り子合唱団

変ロ長調に紫色を見るという共感覚の男が、天井から吊られた二つの大振り子が交互に振れる階段で、ふたつの重りに抓まれるように紫色の頭部を掬い取られる。階段教室で僕は合唱コンクールの課題曲である「うみゆかば」が歌いだせない。アルトの吉田さんの口元を見ると「いろはうた」を歌っている。

(2013年9月21日)

心に効くホヤ

彼女は今日も彼女の家でヒステリックに叫んでいるので、家族は今日も困惑しきっている。僕が行ったときにはもうずいぶん鎮まっていたけれど、僕は彼女にひとつ提案を思いつく。海岸に生えているホヤを叩き切ってみればいい。そうすると感情はおさまるはずだ。そう言って、僕はホヤの断面を思い描く。ホヤは巨大なツリガネ虫のように細い茎を砂浜に根差し、人の頭よりもずっと大きな丸い頭部を持ち上げている。これは植物のようだが、ホヤだから動物だ。動物だから、切ると心に良いのだ。

(1996年3月31日)