砂埃の舞い上がる乾いた土地の遠方に、オレンジ色の人影が横切っている。アクリル板で作られた人体模型のような、あるいは透明で厚さのないイセエビの幼生のようなその生き物がいつのまにかすぐそばまで接近してくると、血色の良い太った男で、その男の笑顔にひどく落胆する。
(2003年6月1日)
砂埃の舞い上がる乾いた土地の遠方に、オレンジ色の人影が横切っている。アクリル板で作られた人体模型のような、あるいは透明で厚さのないイセエビの幼生のようなその生き物がいつのまにかすぐそばまで接近してくると、血色の良い太った男で、その男の笑顔にひどく落胆する。
大きなレジャーセンターの大食堂で、白い丸テーブルを囲む白い椅子に座っている。貸し出し用の水着は、透明アクリルの立体造型で、中に布製の水着を挟み込んでいる。他人が使っていてもこれなら気持ち悪くないね。傍らのSamとそう話してはいるものの、硬いアクリルが股にへばりついて気色悪い。Samは、ごわごわする胸のアクリルを外して、赤くなってしまった皮膚を見せてくれるのだが、ここで乳首を出したらみんな見るじゃないかと、僕はひとりで焦っている。
体育館のような展覧会場に、近森さんの作ったトイレがあるという。そういえば、ちょうど用を足したかったところだし、ちょうどいい。何人かの小学生が、話しながらトイレから出てきた。彼らは、これが作品だということを理解しただろうか。
男子用の便器が並び、その間仕切りにスピーカーが埋め込まれている。便器の中のアクリルの小箱をめがけておしっこをかけると、左右から痛快な低音に挟まれる。なるほどそういう作品ね、と、アクリルをめがけたおしっこの勢いが落ちて放物線がはずれた瞬間、目の前の壁がぐらぐらとゆらぎはじめ、驚きのあまりおしっこが止んでしまった。その壁が液晶ディスプレイで出来ていることにようやく気づくと、まんまと仮想風景にだまされて生理現象までコントロールされてしまったことが、悔しくてならない。