コンクリート迷路の深い行き詰まりに、自分の部屋がある。そこから迷路をはるか逆にたどった出口に、玄関がある。遠い玄関の鍵を掛け忘れていないか、Sは気がかりで落ち着かない。しかし玄関まで行く気力が湧いてこないので、僕はSの気を逸らそうとしている。屋外迷路には天井がないので、容赦のない日差しが唇にあたってひりひりする。Sの切れ込んだ股は襞が濡れて光っているのに、顔の唇はかさぶたのようにごわごわしている。そう易々と気を紛らわせてくれないSは「私はキスが嫌いだったんだ」と言う。Sの腹部は半透明の乳白色で、左脇から管が痛々しく挿入されている。右脇の管は外れて、ミルクチョコレート色の液体が漏れ、くぼんだ腹に溜まりかけている。
(2004年7月3日)