志村三丁目の駅を降り歩いて家に帰ろうとしていると、今日は特別な日とばかり父が得意げにタクシーを止めた。白いワゴンのタクシー内部は雑然としていて、ところどころ水溜りもあり、しかも途中の停留所から人を相乗りさせようとする。丸顔の小柄な運転手は、これはバスだからしかたないと開き直る。父は携帯電話で孫に電話をかけようとしているが、なかなかかからない。僕は、携帯の茶色い箱の中から、もうひとつ小さい箱を取り出し、掌の中でダイアルをプッシュする。父はいつのまにか、大きい方の箱を棺にして中に入ってしまい、中から「まだかからないのか」などと文句を言いはじめる。バスのようなタクシーは志村坂上に到着し、そこでわれわれは降りることになるのだが、しかしこの場所は出発点より家から遠いではないか。今日は特別な日だからそれでいいのか、とも思う。
(2005年12月18日)